もの忘れについて

「最近、同じことを何度も聞いてしまう」「約束を忘れてしまう」「物の置き場所を思い出せない」など、日常生活で「もの忘れが多い」と感じることは誰にでもあります。加齢とともに記憶力が低下するのは自然な現象ですが、生活に支障をきたすようになると病気が関与している可能性もあります。特に認知症やうつ病、脳血管障害などは早期発見と対応が大切です。

考えられる原因と疾患

生理的な加齢変化

年齢とともに脳の働きは少しずつ低下し、新しいことを覚えるスピードが遅くなったり、名前や単語がすぐに出てこなくなったりします。こうした加齢による物忘れは、日常生活に大きな支障を与えることは少なく、ヒントがあれば思い出せることが多いのが特徴です。

認知症

認知症は、記憶や判断力、言語能力などの認知機能が低下し、生活に影響が及ぶ状態をいいます。代表的な原因疾患は以下のとおりです。

うつ病

意欲の低下や気分の落ち込みが強いと、集中力や記憶力が低下し、「もの忘れがひどい」と感じることがあります。これは「仮性認知症」とも呼ばれ、治療により改善が期待できます。

その他の要因

• 睡眠不足や過度のストレス
• 薬の副作用（睡眠薬、抗不安薬、抗コリン薬など）
• 甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症（ビタミンB1、B12など）
• アルコールの過剰摂取
• 脳腫瘍や慢性硬膜下血腫などの器質的疾患

必要な検査・診断

まずは問診で症状の経過や生活状況を詳しく確認します。家族からの情報も診断に役立ちます。

治療・対応方法

原因疾患に応じた治療

認知症の場合

抗認知症薬（コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬）が用いられ、進行を遅らせることが期待できます。

うつ病の場合

抗うつ薬や精神療法により改善が可能です。

甲状腺疾患やビタミン欠乏症などは、適切な治療により記憶力の改善が期待できます。

リハビリテーション・生活支援

• 記憶リハビリテーションや認知機能訓練
• デイサービスや介護サービスの利用
• 家族への心理的支援や介護方法の指導

生活習慣の工夫

• 十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動
• メモやカレンダー、アラームを活用する
• 社会活動や趣味を通じて脳を刺激する

受診の目安

以下のような場合は、早めの受診をおすすめします。

• 同じことを何度も尋ねるようになった
• 約束や予定を忘れることが増えた
• 財布や鍵などをよくなくす
• 料理や買い物、金銭管理など日常生活に支障が出ている
• 気分の落ち込みや無気力が続いている
• 家族や周囲が「以前と違う」と感じている

もの忘れは必ずしも認知症だけが原因ではなく、治療可能な疾患によって起こることも少なくありません。早期に原因を見極め、適切な対応をとることで、生活の質を保ちながら安心して過ごすことができます。