2026年4月28日
犬、猫、うさぎ、鳥、ハムスター、フェレット、その他の小さな家族。
一緒に暮らしてきた「あの子」を失ったとき、こころに大きな穴が空いたように感じることがあります。
家に帰っても、いつもの場所に姿がない。
名前を呼んでも、もう返事がない。
食器、ベッド、首輪、おもちゃ、写真を見るたびに、胸が締めつけられる。
周囲からは、
「たかがペットでしょ」
「そろそろ元気を出したら」
「また新しい子を迎えればいいじゃない」
と言われてしまい、かえって傷つくこともあります。
しかし、ペットロスは、単なる「気の持ちよう」ではありません。
大切な存在を失ったときに起こる、深い喪失反応です。
保谷駅前こころのクリニックでは、ペットロスによる不眠、不安、気分の落ち込み、食欲低下、集中力低下などについて、心療内科・精神科の視点からご相談をお受けしています。
院長は精神科医であると同時に、獣医師として動物医療にも関わってきた経験があります。
そのため、ペットロスを「人のこころの問題」としてだけではなく、「動物と人が共に生きた時間の喪失」として考えています。
ペットロスは「弱いから起こるもの」ではありません
ペットロスでつらくなると、
「自分は弱いのではないか」
「いつまでも悲しんでいてはいけないのではないか」
「こんなに落ち込むのはおかしいのではないか」
と考えてしまう方がいます。
しかし、長い時間を一緒に過ごしてきた存在を失えば、こころとからだに反応が出るのは自然なことです。
特に、毎日の生活の中で「あの子」の存在が大きかった場合、喪失の影響は生活全体に及びます。
たとえば、
•朝起きる理由だった
•家に帰る支えだった
•休日の予定の中心だった
•つらい時期を一緒に乗り越えてきた
•家族よりも近い距離で過ごしていた
このような場合、失った後に日常のリズムが大きく崩れることがあります。
ペットロスは、単に「悲しい」という感情だけではありません。
生活の構造そのものが変わってしまうことでもあります。
ペットロスで起こりやすい心身の変化
ペットロスでは、次のような反応がみられることがあります。
眠れない
夜になると、亡くなったときの場面や、もっとできたことがあったのではないかという思いが浮かび、寝つけなくなることがあります。
「最後の表情が忘れられない」
「あの時、別の選択をしていれば」
「もっと早く病院に連れて行っていれば」
こうした考えが繰り返し浮かび、布団に入ること自体がつらくなる方もいます。
涙が止まらない
ふとした瞬間に涙が出ることがあります。
写真、音、匂い、帰宅時の玄関、空になったケージやベッドがきっかけになることもあります。
食欲が落ちる
食べる気力がわかない、味がしない、食事の準備ができないということがあります。
仕事や家事に集中できない
仕事中に思い出してしまう。
家事をしようとしても体が動かない。
人と話していても、どこか上の空になる。
このような状態が続くと、日常生活に支障が出てきます。
自責感が強くなる
ペットロスでは、自責の念が非常に強く出ることがあります。
「自分のせいで苦しませたのではないか」
「最期の判断を間違えたのではないか」
「安楽死を選んだことが正しかったのか」
「逆に、もっと早く楽にしてあげるべきだったのではないか」
動物医療では、治療、看取り、延命、緩和、安楽死など、非常に重い選択が関わることがあります。
その選択をした飼い主様が、後から何度も自分を責めてしまうことは珍しくありません。
獣医師として見てきた「飼い主様の苦しみ」
院長は獣医師として、動物の病気、治療、看取りに関わってきた経験があります。
動物医療の現場では、動物だけでなく、その子を大切にしてきた飼い主様の苦しみも目の当たりにします。
治療を続けるべきか。
入院させるべきか。
家で看取るべきか。
苦痛をどこまで取ってあげられるのか。
最期の時間をどう過ごすのか。
そこには、医学的な判断だけでは割り切れない、深い迷いがあります。
そして、亡くなった後に残るのは、単なる悲しみだけではありません。
「本当にこれでよかったのか」
「あの子は幸せだったのか」
「自分は飼い主として十分だったのか」
という問いが、こころの中に残ることがあります。
精神科医として見ると、こうした問いは、不眠、不安、抑うつ、自責感、反芻思考につながることがあります。
だからこそ、ペットロスは「ペットを失った悲しみ」だけで終わらせず、必要に応じてこころの状態として丁寧に見る必要があります。
精神科医として考えるペットロス
精神科の視点では、ペットロスは大切な対象を失った後の喪失反応として考えます。
多くの場合、悲しみは時間とともに少しずつ形を変えていきます。
完全に忘れるのではなく、生活の中で少しずつ「あの子」との関係を持ち直していく過程です。
ただし、次のような状態が続く場合は、心療内科・精神科での相談を検討してもよいと思います。
•眠れない状態が続いている
•食事が取れない
•仕事や学校に行けない
•涙が止まらず生活に支障が出ている
•自責感が強く、自分を責め続けている
•死にたい気持ちが出ている
•以前からのうつ病、不安症、不眠症が悪化している
•家族や周囲に話しても理解されず孤立している
悲しむこと自体は病気ではありません。
しかし、悲しみによって生活が大きく崩れている場合には、医療として支える余地があります。
「忘れること」が回復ではありません
ペットロスについて相談される方の中には、
「早く忘れなければいけないのでしょうか」
と話される方がいます。
しかし、回復とは、忘れることではありません。
あの子を大切に思う気持ちを無理に消す必要はありません。
悲しみをなかったことにする必要もありません。
むしろ大切なのは、悲しみを抱えたままでも、少しずつ生活を取り戻していくことです。
たとえば、
•まずは眠れる時間を少し整える
•食事を少し取れるようにする
•仕事や家事を最低限できる状態に戻す
•思い出す時間と、休む時間を分ける
•自責感が強すぎる場合は、その考えを整理する
このように、こころを無理に切り替えるのではなく、生活を保ちながら整えていくことが現実的です。
ペットロスと不眠
ペットロスで特に多いのが、不眠です。
夜になると静かになり、思い出が強く浮かびます。
亡くなった場面、通院していた日々、最後の呼吸、抱っこした感触などが、繰り返し頭に浮かぶことがあります。
眠れない日が数日であれば、自然な反応として経過を見ることもあります。
しかし、不眠が続くと、こころの回復力そのものが落ちていきます。
睡眠不足が続くと、
•涙もろくなる
•不安が強くなる
•自責感が強くなる
•判断力が落ちる
•仕事のミスが増える
•さらに眠れなくなる
という悪循環に入りやすくなります。
この場合、「悲しみを薬で消す」という考え方ではなく、まず睡眠を整え、生活を支えるという視点が重要です。
必要に応じて薬物療法を使うこともありますが、それは悲しみを否定するためではありません。
生活を保ちながら、こころが回復する土台を作るためです。
ペットロスと自責感
ペットロスで強く残りやすいのが、自責感です。
特に動物医療では、飼い主様が多くの選択を迫られます。
治療をする。
治療をやめる。
入院する。
家で看取る。
検査をする。
検査をしない。
手術をする。
手術をしない。
安楽死を選ぶ。
自然に見送る。
どの選択にも、後悔が残る可能性があります。
精神科医としては、こうした自責感が強くなりすぎると、うつ状態や不眠を悪化させることがあると考えます。
一方で、獣医師としては、飼い主様がその時点で持っていた情報、時間、経済的事情、動物の状態、病気の進行を踏まえて、悩みながら選択していたことも理解できます。
後から振り返ると、別の選択肢が見えることがあります。
しかし、その時の状況の中で、必死に考えて選んだことまで、すべて「間違い」と決めつける必要はありません。
ペットロスの支援では、この自責感を丁寧に整理していくことが大切です。
ペットロスは、周囲に理解されにくいことがある
ペットロスのつらさは、周囲に伝わりにくいことがあります。
家族の中でも、悲しみ方が違うことがあります。
ある人は泣き続け、ある人は淡々としている。
ある人は写真を見たい。
ある人は写真を見るのがつらい。
悲しみ方に正解はありません。
ただ、周囲から理解されないことで、孤立感が強くなることがあります。
「まだ悲しんでいるの?」
「仕事は休めないでしょ」
「たかがペットで」
このような言葉によって、悲しみを話せなくなってしまう方もいます。
話せない悲しみは、こころの中で反芻しやすくなります。
誰にも言えないまま抱え込むことで、不眠や不安が強まることもあります。
心療内科・精神科でできること
ペットロスで心療内科・精神科に相談する場合、目的は「あの子を忘れること」ではありません。
当院では、次のような視点で状態を確認します。
•睡眠は保てているか
•食事は取れているか
•仕事や学校を続けられているか
•自責感が強すぎないか
•不安や動悸が出ていないか
•うつ状態が強くなっていないか
•希死念慮がないか
•もともとの精神疾患が悪化していないか
そのうえで、必要に応じて薬物療法や生活面の調整を検討します。
ただし、悲しみそのものを病気として扱うわけではありません。
大切な存在を失った悲しみは、自然な反応です。
医療が関わるのは、その悲しみによって生活が大きく崩れている場合や、不眠・不安・抑うつなどの症状が強く出ている場合です。
自費のペットロス相談について
当院では今後、ペットロスに関する自費相談も検討しています。
これは、通常の保険診療とは別に、ペットロスに特化して時間を確保し、院長の獣医師・精神科医としての経験をもとに、喪失体験や自責感、看取りの迷いについて整理するための相談です。
ただし、自費相談は医療診療とは異なります。
診断、処方、薬に関する相談、診断書作成、休職判断、緊急対応、紹介状作成などは行いません。
医療的な治療が必要な場合は、通常の診療としての受診が必要になります。
ペットロスには、医療として対応すべき部分と、喪失体験を整理するための相談として扱う部分があります。
この境界を明確にすることは、相談される方にとっても、当院にとっても大切です。
「あの子は幸せだったのか」という問い
ペットロスの中で、多くの方が抱える問いがあります。
「あの子は幸せだったのでしょうか」
この問いに、簡単な答えはありません。
しかし、獣医師として多くの動物と飼い主様を見てきた立場から言えるのは、動物にとって、生活の中で安心できる存在がいることは非常に大きいということです。
毎日ごはんをくれる人。
名前を呼んでくれる人。
体調の変化に気づいてくれる人。
病院に連れて行ってくれる人。
最期までそばにいようとしてくれる人。
その存在は、動物にとって大きな意味を持っていたはずです。
もちろん、後悔が消えるわけではありません。
しかし、後悔があるからといって、一緒に過ごした時間まで否定する必要はありません。
悲しみが強いときほど、最期の場面だけに心が引き寄せられます。
けれど、あの子との関係は、最期の数日や数時間だけで決まるものではありません。
一緒に過ごした日々全体が、その子との関係です。
受診を考えてよい目安
次のような状態がある場合は、心療内科・精神科への相談を検討してください。
•2週間以上、強い不眠が続いている
•食事量が大きく減っている
•仕事や学校に行けない
•何をしても涙が止まらない
•自分を責め続けている
•動悸、不安、息苦しさが出ている
•以前のうつ病や不安症が悪化している
•「自分も消えてしまいたい」という気持ちがある
•家族や周囲に話せず孤立している
特に、死にたい気持ちがある場合や、自分を傷つける可能性がある場合は、早めに救急医療機関や救急相談へ相談することが必要です。※この場合は、当院での対応は困難です。
保谷駅前こころのクリニックでの考え方
保谷駅前こころのクリニックでは、ペットロスを「大げさなもの」とは考えていません。
あの子を失った悲しみが、睡眠、食事、仕事、学校、日常生活に影響している場合には、心療内科・精神科として対応すべき状態が含まれていることがあります。
一方で、悲しみを無理に消すことを目標にはしません。
当院が大切にしているのは、生活を保ちながら、無理のない範囲で整えていくことです。
眠れないなら、まず眠れる土台を整える。
仕事や学校を続けながら苦しんでいるなら、現実的な治療を考える。
必要に応じて薬物療法も使いながら、日常生活を崩しすぎないように支える。
悲しみの深さは、その子との時間の深さでもあります。
その悲しみを否定せず、しかし生活が壊れてしまわないように、医療としてできる範囲を考えていきます。
まとめ
あの子を失った悲しみを、ひとりで抱え込まないために
ペットロスは、決して軽いものではありません。
あの子と過ごした時間が長く、深かったほど、失った後のこころの反応も大きくなることがあります。
悲しむことは自然です。
忘れられないことも自然です。
涙が出ることも、自責感が出ることも、珍しいことではありません。
ただし、不眠、不安、抑うつ、食欲低下、仕事や学校への支障が続いている場合には、心療内科・精神科で相談してよい状態です。
保谷駅前こころのクリニックでは、獣医師であり精神科医である院長の視点から、ペットロスによる心身の不調について、現実的な治療を考えていきます。
あの子を忘れるためではなく、
あの子との時間を否定しないまま、
今の生活を少しずつ整えていくために。
必要な方は、WEB問診から現在の状態をご入力ください。
内容を確認したうえで、当院で対応可能な場合にWEB予約へ進んでいただく流れとなります。
保谷駅前こころのクリニック
