2026年4月09日
あの子を想いながら、少しずつ前を向けるようになったあなたへ
3か月前、はじめて当院に来られたとき、あなたはまだ深い悲しみの中におられたのだと思います。
あの子のことを思い出すたびに胸が苦しくなる。
家の中の気配がつらい。
写真を見るのも苦しいのに、見ないでいることもできない。
眠れない。涙が出る。仕事に向かう力が出ない。
周囲にはうまく言葉にできず、ただ毎日をやり過ごすだけで精一杯だったかもしれません。
ペットロスは、「時間がたてば自然に忘れるもの」ではありません。
大切だった存在であればあるほど、こころの中に残るものは深く、簡単には整理できないものです。
けれど、この3か月の中で、少しずつ変わってきたことがあったのではないでしょうか。
最初はつらさが大きく、会社へ行くことさえ難しく感じていた方が、治療を続ける中で、少しずつ生活の形を取り戻していく。
朝起きること、身支度をすること、外に出ること、仕事へ向かうこと。
そうしたひとつひとつが、以前ほど苦痛ではなくなってきた。
そして今は、あの子のことを思い出しても、ただ苦しいだけではなく、少し距離を置いて振り返れる時間が増えてきた。
「本当につらかった」
「あのときは何も考えられなかった」
そうやって、過ぎてきた時間を、少しずつ自分の言葉で見つめ直せるようになってきたのではないかと思います。
気持ちの整理がつく、というのは、忘れることではありません。
悲しみが完全になくなることでもありません。
あの子の存在が小さくなるのではなく、
あの子を想う気持ちを抱えたままでも、あなた自身の生活が少しずつ動き出していく。
それが、回復のひとつの形です。
ペットロス外来を卒業される方の中には、
「まだ思い出すと涙が出ます」
「でも、前のように何もできない感じではなくなりました」
「やっと、あの子との時間を落ち着いて振り返れるようになってきました」
そのように話される方が少なくありません。
それでよいのだと思います。
大切な存在を失ったあとに、何も感じなくなることがゴールではありません。
きちんと悲しみ、混乱し、立ち止まりながらも、少しずつ日常へ戻っていく。
仕事を続けながら、生活を保ちながら、自分なりの形で整っていく。
その過程そのものに意味があります。
卒業は、すべてが終わったという意味ではありません。
これから先も、季節の変わり目や記念日、ふとした風景の中で、あの子を思い出して胸が揺れる日はあるかもしれません。
けれど、そのたびに以前のように崩れてしまうのではなく、
「そんな日もある」と受け止めながら過ごせるようになっているなら、
それは確かな変化です。
あの子と過ごした時間は、消えるものではありません。
つらさだけだった記憶が、少しずつあたたかさを含んだ記憶へ変わっていくことがあります。
その変化を急がず、無理のない範囲で受け入れていくことが大切です。
当院のペットロス外来は、
深い悲しみの中で立ち止まってしまった方が、少しずつ生活を取り戻し、気持ちを整理しながら前を向いていくための外来です。
卒業される方へ。
ここまで来られたこと自体が、ひとつの大切な歩みです。
あの子を忘れたから前に進めたのではなく、
あの子を想う気持ちを持ったまま、日常を取り戻せるようになってきた。
そのことを、どうかご自身でも静かに認めてあげてください。
そしてまた、もし心が大きく揺れる時期が来たときには、必要に応じて立ち止まり、整え直すこともできます。
回復は一直線ではありません。
それでも、今のあなたは、3か月前とは違う場所に立っています。
その歩みを、私たちは大切に思っています。
保谷駅前こころのクリニック 院長
