2026年2月17日
「先生、眠れるようにはなりました。でも、朝がつらいです」
睡眠薬を処方していると、診察室でこういう話を聞くことがあります。
さらに聞いてみると、
「目覚ましでは起きられるんですが、会社に着いてからも頭が動かないんです」
ということがあります。
このとき私は、睡眠薬が「効いているか」だけではなく、
「その薬を飲んだ翌朝、その人がどう生活できているか」
を見るようにしています。
睡眠薬は夜に飲む薬ですが、評価は翌朝までして、初めて終わります。
これは、私が睡眠薬を考えるときに大切にしている視点です。
「眠れた」と「よい治療だった」は、同じではありません
診察室で、
「もう少し効く睡眠薬にしてください」
と言われることがあります。
ただ、「効く」という言葉には、いくつもの意味があります。
薬を飲むとすぐ眠くなる。
寝つきが早くなる。
夜中に起きなくなる。
朝まで眠れる。
翌朝すっきり起きられる。
どれも同じ「効いた」ではありません。
たとえば、飲んですぐ眠れて朝まで眠れたとしても、
朝にふらつく。
午前中ずっと頭が重い。
仕事中に眠気が残る。
という状態なら、「よく眠れたから、この薬でよい」とは単純には考えません。
薬を飲んだ夜だけで採点すると、睡眠薬の半分しか見ていません。
デエビゴと従来の睡眠薬は、眠らせ方が違います
デエビゴは、一般名をレンボレキサントといいます。
オレキシン受容体拮抗薬という種類の睡眠薬です。
オレキシンは、私たちが起きている状態を保つことに関係しています。
デエビゴは、その覚醒を維持する働きを抑えることで、眠りに入りやすい状態をつくります。
一方、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や、いわゆる非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、主にGABAに関係する仕組みを介して脳の活動を抑える方向に働きます。
細かい薬理を覚える必要はありません。
患者さんにとって大切なのは、
「睡眠薬は、どれも同じ方法で眠らせているわけではない」
ということです。
では、デエビゴの方が安全なのか
ここも、よく聞かれるところです。
私は、
「新しい薬だから安全」
「昔からある薬だから危険」
という分け方はしていません。
ベンゾジアゼピン受容体に作用する睡眠薬では、長期間の使用による依存や、急な減量・中止による離脱症状などを考える必要があります。
特に高齢の方では、眠気やふらつき、転倒にも注意します。
一方、デエビゴに変えたあと、
「朝まで眠気が残る」
「夢が妙に鮮明になった」
「金縛りのような感じがあった」
と話される方もいます。
つまり、
「デエビゴなら絶対に安全」
というわけでもありません。
睡眠薬に、誰にとっても一番よい薬があるわけではありません。
その人にとって、得られるものが大きく、困ることが少ない薬を探します。
私は薬の名前より、「朝はどうですか」と聞きます
睡眠薬を調整するとき、薬の名前だけを見て判断することはありません。
診察室ではむしろ、
「朝はどうですか」
と聞くことがあります。
すると、
「朝は普通です」
という人もいれば、
「起きられるけれど、2時間くらいぼんやりします」
という人もいます。
この違いは大きいです。
さらに、
何時に薬を飲んだのか。
何時頃に眠れたのか。
夜中に起きるのか。
朝は何時に起きなければならないのか。
夜中にトイレへ行くことがあるのか。
車を運転するのか。
午前中に集中力が必要な仕事があるのか。
こうしたことを見ます。
同じ薬を同じ量飲んでいても、その人の生活によって評価は変わります。
「前の薬の方が効きました」の中身を聞いてみる
薬を変更したあと、
「前の薬の方が効きました」
と言われることがあります。
そのとき私は、
「前の薬の何がよかったですか」
と聞くことがあります。
すると、
「飲んだら一気に眠くなったんです」
と返ってくることがあります。
ここは大切です。
強い眠気を感じることと、よい睡眠治療ができていることは、必ずしも同じではありません。
早く眠れることが重要な人もいます。
一方で、薬を飲んだときの「効いた感じ」は弱くても、朝すっきり起きられて、日中の調子がよくなっているなら、そちらを評価することもあります。
睡眠治療の目的は、睡眠薬の効き目を実感することではありません。
翌日の生活を取り戻すことです。
睡眠薬は「夜の薬」ではなく、「明日の薬」でもあります
私は睡眠薬を考えるとき、
「今夜眠れるか」
だけではなく、
「明日の朝、この人はどうなっているだろう」
まで考えます。
朝から仕事へ行く人。
子どもの世話をする人。
車を運転する人。
転倒を避けたい人。
生活は一人ひとり違います。
だから睡眠薬は、単純な「強さ」で選ぶものではありません。
薬の強さではなく、生活との相性を見る。
睡眠薬を選ぶということは、その人の明日の生活を考えることでもあります。
今飲んでいる睡眠薬を、自己判断で急にやめないでください
一方で、
「依存すると書いてあったから、今日から飲まない」
という方法は勧められません。
長期間服用している薬を急に中止すると、不眠が強くなったり、不安や焦りなどの離脱症状が出たりすることがあります。
薬を減らしたい場合も、
何を飲んでいるのか。
どのくらいの期間飲んでいるのか。
現在どのくらい眠れているのか。
を確認しながら考えます。
ネットで薬について知ったその日に、治療方針まで自分で決める必要はありません。
「どちらが安全ですか?」から、もう一歩先へ
デエビゴとベンゾジアゼピン系睡眠薬。
どちらが安全なのか。
大切な疑問です。
ただ、診察室では、もう一歩先を考えます。
「あなたの場合、どの薬なら夜だけではなく、翌日の生活まで守れるか」
です。
眠れないのも困ります。
しかし、眠るための治療で朝から生活できなくなっても困ります。
だから私は、
「眠れましたか」
だけではなく、
「朝はどうでしたか」
まで聞きます。
そこまで見て、睡眠薬の評価になります。
今の睡眠薬が合っているのか分からない方へ
「デエビゴに変えた方がいいのだろうか」
「今の睡眠薬を長く飲んでいて大丈夫だろうか」
「眠れるようにはなったけれど、朝がつらい」
「薬を減らしたいけれど、また眠れなくなりそうで怖い」
こうした場合、どの薬がよいかを自分で決めてから受診する必要はありません。
当院は完全予約制です。
ご記入いただいたWEB問診をもとに、医師が内容を確認し、当院でお力になれると判断した場合に、WEB予約をご案内します。
WEB問診を書けば、必ず予約できるわけではありません。
今の睡眠と、朝どう困っているのかを、そのままWEB問診に書いてください。
保谷駅前こころのクリニック
