2026年8月08日
診察室で患者さんのお話を聞いていると、
時々、私の頭の中に神社の絵馬が浮かぶことがあります。
もちろん、そのことを患者さんに話すことはありません。
でも、不思議なくらい重なるのです。
「眠れるようになりたい。」
「仕事へ戻りたい。」
「また以前のように笑いたい。」
患者さんが口にする言葉は違っても、
その奥には、いつも一つの願いがあります。
私は、その願いを聞くたびに、
神社で静かに絵馬へ願いを書いている人の姿を思い浮かべます。
診察室では、
こんな言葉をよく耳にします。
「先生、もうどうしたらいいのか分かりません。」
この言葉を聞くたびに、
私は薬のことより先に考えることがあります。
この方は、
答えが知りたいのだろうか。
それとも、
安心したいのだろうか。
精神科医は、
答えを持っている人だと思われることがあります。
でも、私はそうは思っていません。
人生には、
医師が代わりに決められないことがたくさんあります。
仕事を続けるか。
休職するか。
家族とどう向き合うか。
人生の選択には、
医学だけでは答えを出せないものがあります。
だから私は、
「一緒に考えましょう。」
そうお伝えします。
私は、
患者さんに答えを渡す仕事ではなく、
答えを見つけるお手伝いをする仕事だと思っています。
そのとき、
私の頭の中には、
また絵馬が浮かびます。
神社で絵馬を書いても、
神様から返事が届くことはありません。
「あなたの人生の正解はこちらです。」
そんな手紙は届きません。
それでも、
人は何百年も絵馬を書き続けてきました。
なぜでしょうか。
私は、
その時間そのものに意味があるのだと思っています。
願いを書くことを決める。
言語化する。
自分の目で見て確認する。
その過程で、
自分が本当に望んでいることが少しずつはっきりしてきます。
心理学でも、
自分の考えを言葉や文字にすることは、
思考を整理し、
目標を明確にし、
行動につながりやすくする助けになることが知られています。
頭の中だけにある願いは、
まだあいまいで輪郭がありません。
でも、
「眠れるようになりますように。」
と書いた瞬間、
その願いは、
未来へ向かう具体的な目標へと少し姿を変えます。
だから私は、
絵馬は、脳が少し未来を見るための装置なのではないか。
とも考えています。
もし診察室に、
「こころの絵馬」
があるとしたら。
私は患者さんに、
もう一行だけ書き足してみませんか、
とお話しするかもしれません。
「今日は30分早く寝る。」
「朝5分だけ外へ出る。」
「薬を忘れず飲む。」
「一人で抱え込まず、誰かに相談してみる。」
願うのは未来です。
行動するのは今日です。
未来は、
今日の行動の積み重ねの先にあります。
だから私は、
神様は変えられなくても、自分の行動は変えられる。
そう思っています。
この点、認知行動療法にも、
少し似たところがあります。
私たちは、
患者さんに考え方を押しつけるのではありません。
患者さん自身が、
自分で考え、
自分で選び、
自分で歩き始められるよう、
一緒に整理していきます。
答えを与えることより、
答えの見つけ方を一緒に考えること。
それが、
精神科医として私が大切にしていることです。
診察が終わり、
患者さんをお見送りしたあと、
私は時々、
クリニックのロゴに描かれた馬を見ます。
そのたびに思います。
この馬は、
患者さんをゴールまで運ぶ馬ではありません。
患者さんの代わりに人生を歩く馬でもありません。
でも、
歩幅を合わせ、
隣を歩くことはできます。
疲れた日は、
歩く速度を落としてもいい。
立ち止まる日があってもいい。
そして、
また歩き始めればいい。
私たち医療者は、
患者さんの人生を代わりに生きることはできません。
でも、
迷ったときに地図を広げ、
現在地を一緒に確認し、
次の一歩を考えることはできます。
だから、
保谷駅前こころのクリニックでは、
今日も私は、
患者さんと一緒に地図を広げます。
答えを渡すためではなく、
その人が、自分自身の答えを見つけられるように。
神社の絵馬を見るたびに、
私は思います。
絵馬は、未来を神様へ預ける木札ではありません。
未来の自分自身へ宛てた、一枚の手紙なのかもしれません。
そして、
クリニックの馬を見るたびに、
私はもう一つ思います。
歩くのは、あなた。
並走するのは、私たち。
それが、保谷駅前こころのクリニックの考える精神医療です。
保谷駅前こころのクリニック
眠れない、不安が続く、仕事や学校へ向かうことがつらい――そんな悩みは、一人で抱え続けるほど出口が見えにくくなることがあります。
当院ではWEB問診で現在の状況を確認したうえで、診療体制に適した方をご案内しています。診療枠には限りがあるため、すべてのご相談をお受けできるわけではありませんが、当院の診療体制に合う方には、医学的根拠に基づいた現実的な治療を一緒に考えていきます。WEB問診はその第一歩です。
