2026年9月17日
当院を初めて受診された方が、以前から通っていたオンライン診療のクリニックのお薬手帳を持参されました。
「先生、今、この薬を飲んでいます」
お薬手帳には、そのクリニックで処方された3種類の睡眠薬が並んでいました。
当院が処方した薬ではありません。当院を受診する前に、他院の処方で毎晩3種類を同時に飲んでいた、というお話です。
初診でその処方内容を確認し、私は手を止めました。
睡眠薬が3種類。これは、見過ごせる処方ではありません。
睡眠薬の治療では、安易な多剤併用を避けることが基本です。薬の種類が多いほど、よく眠れる、よい治療を受けている、というものではありません。日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」
眠れないから、薬を足す。
まだ眠れないから、さらに足す。
こうした奇妙な足し算が、そのまま適切な睡眠治療になるわけではありません。
新しい薬を加えるのであれば、それまでの薬が役立っているかを見直す必要があります。効果の乏しい薬が残ったまま、種類だけが漫然と増えていないか。効き方が重なり、眠気やふらつきにつながっていないか。
処方する医師には、常にその判断が求められます。
一部の例外として、薬の切り替え途中などの場合もありますが、3種類を同時に飲み続けることを、睡眠薬の標準的な使い方だと受け止めてはいけません。
患者さんは、処方された薬を見て、その組み合わせが妥当かどうかを判断できるとは限りません。
「クリニックで出されたのだから、こういうものなのだろう」
そう受け止めるのは自然です。
しかし、医療機関から出された処方であっても、そのまま見過ごせないものに出会うことがあります。今回、当院の初診で確認した他院の処方も、併用の妥当性を慎重に検討すべき内容でした。
これは、オンライン診療全体についての話ではありません。対面でもオンラインでも、睡眠薬の処方には専門的な知識と慎重な判断が必要です。
そして、薬を処方した後に効果を確認することも、処方した医師の仕事です。
夜は眠れるようになった。
けれど、朝は起きられない。
午前中まで眠気が残る。
夜中に立ち上がると、ふらつく。
こうした状態を、「眠れているから大丈夫」で済ませることはできません。睡眠薬による翌朝への持ち越しや、ふらつきなどにも目を向ける必要があります。日本睡眠学会の診療ガイドライン
睡眠の治療では、夜に眠れたかだけでなく、翌日をどう過ごせているかまで確認します。
お薬手帳に並ぶ薬の数は、治療の手厚さを表すものではありません。
3種類を飲んで眠れているとしても、それだけでは、3種類すべてが必要とは限りません。効果の乏しい薬が、そのまま残ったままの可能性もあります。
どの薬を使い始めて、眠りがどう変わったのか。
追加した薬には、それに見合う効果があったのか。
今も3種類すべてを続ける必要があるのか。
それぞれの効果を見極めるのは簡単ではありません。だからこそ、処方した医師が経過を確認し、評価を重ねる必要があります。
どの睡眠薬が効いているのか、どの睡眠薬が効果が乏しいのかを判定して、1種類の睡眠薬を処方してくれる、
そのような診療施設に、ご自身の眠りと安全を任せたくはないですか。
保谷駅前こころのクリニック
