第209話「オレキシンとは?」疲れているのに眠れない夜――体は帰宅しているのに、脳だけがまだ勤務中|保谷駅前こころのクリニック|西東京市「保谷駅」北口すぐの心療内科

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第209話「オレキシンとは?」疲れているのに眠れない夜――体は帰宅しているのに、脳だけがまだ勤務中

第209話「オレキシンとは?」疲れているのに眠れない夜――体は帰宅しているのに、脳だけがまだ勤務中|保谷駅前こころのクリニック|西東京市「保谷駅」北口すぐの心療内科

2026年2月28日

「先生、ものすごく疲れているんです。でも、眠れないんです」

睡眠の診察をしていると、ときどき聞く言葉です。

朝から仕事をして、電車に乗って、ようやく家に帰る。

夕食を済ませる。
お風呂にも入る。
明かりを消して、布団に入る。

体は明らかに疲れている。

ところが、そこで頭が動き始めます。

「あのメール、返しておけばよかったかな」

「明日の会議、どうしよう」

「あの人の言い方、やっぱり気になる」

時計を見る。

0時20分。

もう一度見る。

0時53分。

そして、

「早く眠らなければ」

と思ったところから、さらに眠れなくなる。

こういう患者さんに、私は診察室でときどき、

「体はもう帰宅しているのに、脳だけがまだ勤務中なんですね」

と説明します。

仕事は終わっている。

会社からも帰ってきた。

けれど、

脳の終業時刻だけが来ていない。

そんな夜があります。

この状態を考えるときに知っておきたいものの一つが、オレキシンです。

オレキシンとは?

オレキシンは、脳の視床下部で作られる神経ペプチドです。

難しい名前ですが、その働きの一つは、

「起きている状態を安定して維持すること」

です。

日中に仕事をする。

人と話す。

周囲に注意を向ける。

考える。

行動する。

私たちが昼間ある程度しっかり目を覚まして活動するためには、脳の覚醒を保つ仕組みが必要です。

オレキシンは、その重要な一部を担っています。

つまり、オレキシンは「眠りを邪魔する悪い物質」ではありません。

本来は、

昼間を昼間らしく過ごすために必要な仕組み

なのです。

不眠は「眠る力が足りない」だけではありません

眠れない夜が続くと、

「自分には眠る力がない」

「もっと強い睡眠薬が必要なのではないか」

と考えやすくなります。

しかし、睡眠はそれほど単純ではありません。

眠る方向へ向かう力がある一方で、

起きていようとする力

もあります。

ですから、不眠の中には、

眠る力が弱いというより、覚醒する側の力がなかなか下がらないと考えると理解しやすいものがあります。

この見方ができると、睡眠治療の景色が少し変わります。

眠気を強く「足す」ことだけが治療ではない。

覚醒を静かに下げていく。

そういう考え方もあります。

私は患者さんに、

「眠りは、足し算だけではありません。覚醒の引き算で整うことがあります」

と説明することがあります。

「こんなに疲れているのに眠れない」は、矛盾ではありません

ここは、睡眠に悩んでいる方に知っておいてほしいところです。

身体が疲れていることと、頭が覚醒していることは、同時に起こります。

たとえば、

仕事で嫌なことがあった。

明日の予定が気になっている。

帰宅してからも仕事のメールを見ている。

布団の中で今日の会話を繰り返し思い返している。

「また眠れなかったらどうしよう」と考えている。

そんな夜です。

体は、

「もう休みたい」

と言っている。

ところが頭は、

「まだ考えておいた方がいい」

「明日の準備をしなければ」

「何か忘れていないか」

と動き続ける。

つまり、

疲れている体の上で、覚醒した脳だけが残業している。

そんな状態になることがあります。

「疲れているのに眠れないなんて、おかしい」

と思わなくてよいのです。

体の疲労と脳の覚醒は、必ずしも同じ速度で下がるわけではありません。

診察室では「何時間眠れたか」だけを見ていません

「4時間しか眠れません」

もちろん、それは重要な情報です。

でも、診察で知りたいのは、睡眠時間だけではありません。

私は、

その人の夜に、何が起きているのか

を見ます。

布団に入ってから、眠るまで何をしているのか。

何を考えているのか。

途中で目が覚めるのか。

朝早く目が覚めてしまうのか。

翌日に眠気が残るのか。

仕事の前日だけ悪くなるのか。

休日には少し眠れるのか。

同じ「眠れない」という一言でも、

中身は人によってかなり違います。

不眠そのものが中心なのか。

不安が強いのか。

仕事のストレスが関係しているのか。

生活リズムがずれているのか。

薬の影響があるのか。

身体の病気を考える必要があるのか。

あるいは、

睡眠そのものを気にしすぎることが、眠りを遠ざけていないか。

一つずつ整理していきます。

オレキシン受容体拮抗薬という考え方

現在の不眠症治療には、オレキシン受容体拮抗薬という種類の睡眠薬があります。

これは、覚醒を維持するオレキシン系の働きを抑えることによって、眠りへ移行しやすくする薬です。

ここでも考え方は同じです。

何かを強く足して眠らせるというより、

起き続ける側の力を少し下げる。

そう考えると分かりやすいでしょう。

ただし、

「オレキシン受容体拮抗薬なら何でも同じ」

「新しい薬ほど自分に合う」

というわけではありません。

寝つきが悪いのか。

途中で目が覚めるのか。

翌朝に眠気が残るのか。

生活時間はどうか。

ほかの薬を使っているか。

こうしたことを見ながら治療を考えます。

だからこそ、

薬の名前を先に決めるより、自分の「眠れない」を先に分解すること

が大切です。

「眠らなければ」が、脳の新しい仕事になることがあります

23時に布団に入る。

「今日は7時間眠りたい」

と思う。

0時になる。

「もう6時間しかない」

1時になる。

「明日は仕事なのに、あと5時間しかない」

時計を見る。

計算する。

焦る。

もう一度、時計を見る。

こうなると、ベッドが少しずつ、

眠る場所から、「ちゃんと眠れるかを監視する場所」に変わっていきます。

ここで、おかしなことが起こります。

眠るために始めたはずの、

「眠らなければ」という努力そのものが、脳の新しい仕事になる。

脳を休ませたいのに、

今度は脳に、

「睡眠管理」という夜勤

をさせてしまうわけです。

このタイプの不眠では、薬だけでなく、睡眠についての考え方や行動を整えていく睡眠に対する認知行動療法(CBT-I)という方法が役立つことがあります。

「眠れない人」ではなく、「まだ終業できていない夜」と考えてみる

眠れない夜が続くと、

「自分の睡眠がおかしくなった」

「もう普通には眠れないのではないか」

と不安になる方がいます。

しかし、一部の不眠については、

眠る能力そのものを失ったというより、脳がうまく「終業」できなくなっている状態として考えると、理解しやすいことがあります。

これは、少し大きな違いです。

「自分は眠れない人間だ」

と考えると、問題が自分自身にあるように感じます。

でも、

「今日は脳がまだ終業できていない」

と考えると、

次の問いが生まれます。

では、何が終業を邪魔しているのだろう。

仕事なのか。

不安なのか。

明日の予定なのか。

生活リズムなのか。

睡眠への焦りなのか。

薬なのか。

そこが見えてくると、治療の方向も見えやすくなります。

今日、一つだけ覚えて帰るなら

オレキシンという難しい名前まで、無理に覚える必要はありません。

今日、一つだけ覚えて帰るなら、

「体は帰宅しているのに、脳だけがまだ勤務中の夜がある」

ということです。

仕事は終わった。

家にも帰った。

布団にも入った。

それでも、

脳の終業時刻だけが来ていない。

そんな夜があります。

そのとき、

「もっと頑張って眠ろう」

とするより、

「どうすれば、この脳を終業させられるだろう」

と考えてみる。

それが、睡眠を立て直す入口になることがあります。

西東京市・保谷・大泉学園周辺で「疲れているのに眠れない」方へ

「布団に入ると急に頭が冴える」

「明日の仕事を考えると眠れない」

「夜中に何度も目が覚める」

「睡眠薬を使っているけれど、今の治療が自分に合っているのか分からない」

こうした状態が続いている場合、

睡眠薬を選ぶ前に、まず、なぜ脳が終業できていないのかを整理すること

が大切です。

保谷駅前こころのクリニックでは、受診前にWEB問診をご記入いただいています。

何時頃に布団へ入るのか。

眠るまで、どのくらいかかるのか。

夜中に目が覚めるのか。

朝は何時に起きるのか。

翌日に眠気が残るのか。

そして、

布団に入ったとき、頭の中では何が始まるのか。

うまく文章にまとめる必要はありません。

そのまま書いてください。

WEB問診は、薬を決めるためだけのものではありません。

あなたの脳が、どこで「終業できなくなっているのか」を整理する入口です。

問診内容を確認し、当院で対応可能と判断した方にWEB予約をご案内しています。

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